ツヴォイ式お絵描き102「アントニオ猪木」13

「タイガー・ジェット・シン」の「アルゼンチン・バックブリーカー」です。

私の知る限り、シンがこの技を出したのは、この日の一回限りですが、

この技を18番にしている、どのプロレスラーよりも完璧なこの技の決まり方だと思っています。

「1975年6月26日・蔵前国技館」で行われた、

「タイガー・ジェット・シンvsアントニオ猪木」の

NWFヘビー級選手権試合で、シンが二本目に決めた技でした。

この日のシンはいつもの凶悪ファイトを封印し、予想外のクリーンファイトを展開。

タイトル奪還に挑む猪木は一本目を見事な回転足折固めで決めますが、

二本目の途中あたりから、シンは本領発揮とばかりに場外乱闘とラフプレーで猪木を翻弄し流血に追い込み、

シンの得意技のコブラクローで、猪木はいつの間にか喉から血をドクドク流しながら、

さらにシンの秘密兵器のこのアルゼンチン・バックブリーカーを決められます。

解説の東京スポーツ・桜井康夫さんの、

「あ、いや・・・バックブリーカーですねぇ・・・・。」

の驚きの言葉も印象的で、

喉から血を流しながら、完璧なバックブリーカーから逃げらずに力尽きてギブアップする無残な猪木の姿と、

ダメ押しともトドメとも言えるこの技を、余裕の笑みで決めるシンの残忍さのコントラストは、あまりに残酷で衝撃的で、

テレビで観ていた当時10歳だった私のショックは相当なものでした。

シンの底知れぬ圧倒的な悪の力の前に、正義の猪木は、あぁ、もうシンにはどうしても勝てないのか、負けてしまうのか・・・・・・。

そんな影響を受けたこの試合なのですが、何が言いたいかと言うと(笑)、

今にして思えば、この一枚の主人公は、実は、技をかけられている方の猪木だということです。

 

当時の新日本プロレスは、有名外国人レスラーの招聘ルートが絶たれていたことから、

自前の独自路線で、エース外人を創造するしかない背景がありました。

そこで登場したのが、この「タイガー・ジェット・シン」で、

突如日本に現れ、凶器攻撃や反則技で、悪の限りを尽くすシンを、日本のエースの正義の猪木が成敗する、という展開に、血沸き肉踊っていたわけですが、

当時の猪木は、勝つ時は、劇的な見事な勝ち方でインパクトを残すのは当然ながら、

負ける時ややられている時もまた、もう「これでもか」というほどの完璧でメッタメタで残酷なやられ方で、

その姿は、勝つ時以上のインパクトがありました。

 

大学時代に、同人誌をつくるプロレス研究会に参加させてもらっていましたが、

そこの先輩のMさんが、猪木のことを、

「この人ほど、強いのか、弱いのか、おぼろな人はいない。」

と書いていました。

私が子供の頃から抱く猪木像を、見事に象徴する一文だと思いました。

(Mさん、お元気かなぁ・・・・・。)

 

当時の猪木は、前記の理由から、無名のB級外人レスラー達を光らせざるを得ない状況にあったこともあるでしょうが、

相手を圧倒的に輝かせることで、結果、自分も相手も一緒に輝き続け、双方が仕事も人生も豊かになっていく、

という構造を創り出していたわけで、

それは、プロレスの世界のみならず、正しく、ビジネスの原則であり、本質だと、最近になって思っています。

このシンを始め、キラー・カール・クラップからスタン・ハンセンに至るまで、多くの外国人レスラー達は輝き続け、

そして、猪木も新日本プロレスも1980年代への大ブームへと繋がっていきます。

まぁ、結局最後は、猪木一番いいとこを持っていくというのが猪木でもあるなわけで(笑)、

この日の試合も、決勝の三本目は、逆転のバックドロップからの完璧なピンフォールで、

NWFタイトルを見事奪還し、10歳の私は狂喜乱舞して感動させられて、さらに猪木に魅了されていくわけで(笑)、

それどころか、さらに、負けたシンも、最後に猪木を称え、まさかの勝者の手を上げるという名場面もあって、

さらに10歳の私は涙を流すほどに感動蟻地獄へといざなわれてしまうわけで(笑)。

「相手を輝かせる人が、実は最も輝く・・・・・。」

この本質を、私は大人になってから、やっと言葉上の理解はするようになるわけですが、

仮に、頭で理解だけでもできているとしたら、

こういう大切なことを子供の頃からプロレスの世界から学んでいたからなのだとも思うのです。

 

もう大人になったのだから、

もうそろそろ、自分が、自分が、ではなく、猪木やシンが身をもって教えてくれた大切なことをできるようにならないといけないと、

このシーンを見る度に反省させられるのです(苦笑)。

偉そうに、分かっているつもりのようで、できんのです、これがなかなか・・・・(苦笑)。

多くのプロレスファンは、

「プロレスの世界には人生の学びある。」

と言います。

それはもちろん、人それぞれの捉え方としてのバリエーションはあれど、

私は私で、やはりそう思っている一人です。

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