ツヴォイ式お絵描き021「ウルトラマン」01
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子供の頃、はやく大人になってお仕事がしたいと思っていました。
私は、傘メーカーの三代目として生まれました。
商店街の傘屋さんでもある実家で生まれ育ちました。
幼稚園の頃までは、同じ並びの数軒隣の長屋に父や社員さんが勤める本社兼工場があって、私はそこで時々遊ばせてもらっていました。
工場には、傘の骨や、生地や、手元(ハンドル)がたくさんあって、
従業員さんたちが畳の上であぐらをかいて、傘の骨に手元をつけて光景をおぼろながらに記憶しています。
当時は、オリジナルのデザインの生地の反物があって、
その中には、子供用の傘の生地があって、さらにその中には男の子用の生地も数点ありました。
よく見ると、ウルトラマンの顔に仮面ライダーの体の絵が描いてあったりと、
似ているんだけど、全部ちょっと変な怪獣やヒーロー達でした。
「本物はこんな変な風じゃない。お父さん達は、本物をよく知らないからこんな風に描くんだ。僕がおっきくなったら、ちゃんとしたウルトラマンやバルタン星人を描いてあげるんだ。」
版権の都合で、当時はよくあった適当バチ物キャラクター(笑)を前に、そう思っていました。
時々、ごく稀に、片隅にある、キャラクターデザインの参考にするための漫画や雑誌を見つけました。
それは私にとってはお宝でした。
一冊買ってもらうのには、必死で頼まないと買ってもらえなかったお宝本が、無造作に山積みなっていて、
可愛がってくれている従業員さんが、物欲しそうに見つめる私を見つけて、使い古した雑誌を「ほれ、ヒデ君」」といって、内緒で私にくれることがありました。
今日はそのチャンスがないものかと、工場に物色しにいくのが楽しみでした。
その時の最強の宝が「怪獣解剖図鑑」というマニアの中では有名な絵本ででした。
その本の中には、たくさんの怪獣や宇宙人の解剖図がリアルなイラストで見事に描いてあって、丁寧な解説もついていました。
ページをめくると、ゴジラ・ガメラ・バルタン星人・テレスドン・・・・、夢のオールスターキャストが勢揃いでしたが、
でも、そんな芸術的なイラストも、解剖図なんてのは、幼稚園児の私にとってはいらぬお世話で、解剖していない単なる怪獣の絵であってほしかったわけですが(笑)。
その本の中には、ウルトラマンの解剖図も載っていました。
当時の私には実在していたウルトラマンは、どんな骨格をしていて、なぜスペシウム光線が出せて、なぜ羽根もないのに空を飛べるのかがよく分かるように解説されていました(笑)。
こんな解説の文字なんかいらないのに、と思いながら読めない漢字を観ていました(笑)。
大人になったら、いつでも大好きな本を好き放題買って、ちゃんとしたヒーローや怪獣を描いて、知らない文字も全部読めてウルトラマンの秘密が分かって、
だから、はやく大人になりかった。
あれからもう随分と時は経ち、私は、当時望んだ通りに大人になりました。
大人になったらなったで、色んな事があったし、そして今も色んなことはあるけれど、
でも、ちゃんと、本物のウルトラマンを描くんだという自分との約束は、こうして果たせていて(笑)、
だから、こうして大人になれてやっぱり嬉しいです(笑)。
「大人になったら、一杯楽しいこともあるし、でも途中で色んな現実に気づいてしまったり、失敗して凹むようなこともあるけれど、
でもな、ウルトラマンの中には人間が入ってるという人が嘘つきで、この絵の通り、ウルトラマンは中身までちゃんとウルトラマンでいてくれてて、
そして、お前は、ちゃんと上手に描けるようになるんだからな。ずっと信じてていいからな。」
あの時の自分に、たまにそう伝えてあげています。